記憶・49
「ミオにとっては、パパが恋人なんだ」
「そうかな。……あたしはたぶんファザコンなのね。将来パパみたいな人と結婚したいの」
 ミオの父親。オレの想像力はあまり働かなかった。
「ミオのパパはどんな人?」
 ミオはしばらく考え込んでいた。
「……人に説明しようとすると難しいわね。何でもできて、何でも知ってて、誰にでも頼りにされる人。パパはあたしの自慢のパパなの。優しくてね、でも考え方とか行動とか、絶対矛盾してなかった。ちょっと子供っぽいところとかもあって。それに若いのよ。まだ30台だし」
 話を聞いているうちにオレはどんどん落ち込んできていた。ミオの恋人になろうとするなら、オレはその男を超えなければならないのだ。まだ30台? 冗談じゃない。オレだってもう32歳なんだ。
「そんなすごい人もいるんだな。オレがあと何年か経って、ミオのパパと同じ年になっても、そんな風にはなれそうもないや」
「それは判らないわよ。伊佐巳はまだ15歳なんだもの。いくらでもすごい人になれる可能性はあるわ」
「オレはもう32歳なんだろ?」
「それは肉体年齢でしょう? 可能性って、精神年齢が決めるものだと思うわ。今の伊佐巳は15歳で、その可能性は15歳の男の子の可能性じゃない。伊佐巳には16歳のあたしよりも1年分多い可能性が広がっているのよ」