記憶・48
 ミオに言われなくても判ってる。オレが言ってることは、さっきからおかしなことばかりだ。オレが本当に知りたいのはミオに恋人がいないこと。オレがミオを好きになっても、報われる可能性があるってことだから。
 ミオのことを好きなのかどうか、自分ではよく判らない。なついてるだけかもしれない。ここにはオレとミオしかいない。もしも他にも女の子がいたら、オレはミオじゃなくその娘を選んでいるのかもしれない。
 だけど、今ここにいるのは、本名も判らないミオという女の子ただ1人なんだ。
「恋人はいないのか? 本当に?」
「残念ながらね。今のところそんなに欲しいとも思わないけど」
「でも、好きな人はいるんだろ?」
「たくさんいるけど、恋人になりたいような人はいないわね」
 本当か嘘かわからないけど、オレはかなりほっとしていた。
「だったら、1番好きな人は誰? 雇い主の男か?」
「それなら決まってるわ。あたしの1番好きなのは、世界にたった一人、あたしのパパ」
 そう言った時のミオの表情を、オレはしばらく忘れることができないだろう。
 ミオはオレの目を見ていた。まっすぐな視線で、でもけっしてオレ自身を見てはいなかった。ミオが見ていたのは、オレを通り越したその先。おそらくオレの後ろに幻として存在していたのだろう、彼女の父親だったのだ。
 ミオは父親を愛している。彼女の愛情はその深さにおいて誰に恥じることもないだろう。オレは知っていたはずだった。彼女の愛情の全ては、今、父親の存在に注がれているのだ。
 恋人を探している余裕なんか彼女にはないのだ。ミオは今父親に会うことだけで精一杯。たぶん、オレが入り込む隙間なんかないのだろう。
 オレのことを本気で考えることなど、今の彼女に出来るはずがない。