記憶・41
「とにかく、目は大丈夫? かなり疲れてるんじゃない?」
 オレはいったん目を閉じてみた。目を開けているときには判らなかったが、こうして目を閉じると眼球の奥に鈍い痛みを感じる。オレは急激に自分の疲れを意識した。なるほど、暗闇でパソコンをいじることは、オレが想像した以上に目を酷使することらしいのだ。
「……ほんとだ。疲れてる」
「お願い伊佐巳、あんまり無茶なことはしないで。伊佐巳の健康管理もあたしの仕事なの。規則正しい生活をすることが心にも身体にも一番の栄養なのよ」
 ミオはオレの健康管理までも雇い主に命じられているのか。オレがゆっくり眠るためには、ミオには別室で眠ってもらうのが最大の栄養なんだけど。
 再び目を開けたオレににっこり笑いかけると、気がすんだのかミオは箪笥の方に移動していった。オレは何とはなくミオの動きを目で追っていた。箪笥の前まで行ったミオは、それがまるで自然なことなのだというように、いきなりパジャマを脱ぎ始めたのだ。
 オレは慌てて目を逸らした。いったいなんなんだよ。どうしてオレの見てる前で着替えを始めようなんて思えるんだ!
「伊佐巳、あなたもいつまでもパジャマでいるなんてよくないわ。伊佐巳の着替えは下の2段に入ってるの。自分で選べる?」
 目のやり場に困って、オレは下を向いたままもごもご返事をした。自分の心臓の鼓動がやけに耳につく。まさかミオに聴こえてはいないだろうけど。
 ミオはオレのことを、幼稚園児だとでも思っているのか。確かにオレは生まれたてのように何も覚えてない立派な記憶喪失だけど、肉体的には32歳で精神的には15歳の紛れもない男なんだぞ!