記憶・43
 ミオの周りには、ミオが恋をしてもおかしくないすごい男たちがたくさんいる。オレにいったい何ができるだろう。ミオを守ることができるのだろうか。その男たちと対等に戦うことができる男に、オレはなれるのだろうか。
 オレはここでなにをしている。ただ守られて生まれたばかりの赤ん坊のようにうろうろしているだけだ。やらなければ。でも、何を? オレは何をするはずだった? オレにはこんなことをしてる暇なんかなかったはずだ。
 オレは何かをしなければならなかった。記憶を失う前のオレは、何か重大なことをするために生きていた。何か、世界を変えてしまうような、人の運命を変えてしまうような何か。
「伊佐巳?」
 このときオレは何かを思い出しかけていたような気がする。ミオに声をかけられるまで、目の前の風景は無機質な白い壁やミオの心配そうな顔などではなかった。それは白昼夢と呼ばれるものだったのか。混沌としていて、不気味で、どこか恐怖を誘う感じだけが我に返ったオレの脳細胞の隅に残されていた。
「どうしたの? 眠いの?」
 そうか。オレは眠りに引き込まれていたんだ。オレの中の闇であるあの男に呼ばれて。
「……ごめん。話の途中だったよね。やっぱオレ、少し眠いみたいだ」
「朝から変な話だけどもう少し眠る?」
「いや、大丈夫。変な夢見そうだし」
 今の白昼夢は、オレの記憶なのだろうか。本当にオレは重要な何かをやろうとしていたのか。それとも、それらは全て思い違いで、オレの中の焦りが形を変えて表面に現れただけなのだろうか。
 ミオの回りの男達は、いったいどんな態度でミオに接しているのだろうか。