記憶・34
「初めて折ったんだもの。誰だって最初の鶴はこんなものよ。そんなに暗くならないで」
 オレの中にむくむくと悔しさが湧きあがってきた。ミオはあんなに簡単に折ることができたのに、倍の人生を生きているはずのオレが折った鶴はまるで幼稚園児のいたずらだ。ミオは32年も日本人をやっていて、折り紙を知らないのは恥ずかしいことだと言ったじゃないか。おそらく折り紙は日本人なら誰でもできることなのだ。誰でもできることがオレにできないなんで、オレのプライドが許さなかった。
「ミオ、オレはいったい何が悪かったんだ? どうしてこんなにミオと違ったものになったんだ?」
「そうね、一番大きいのは、角をちゃんと合わせてなかったことよ。角をきちんと合わせて、折り目をしっかりつければ、それだけでずいぶんきれいに見えるものよ」
「もう一度やってみる」
 オレは今度は自分で引き出しの中から紙を少し多めに持ってきた。今度は2枚重ねたりせず、最初に三角形に折ったあと、はみ出した部分を切り取って正方形にする。オレの記憶力は割にいい方らしく、折り方の順番は既に頭に入っていた。二つ目の鶴は、ミオが折った鶴にかなり近い形にまでなっていた。
「ほら見ろ。オレはやればできるんだ」
 なんだか得意になってオレは折ったばかりの鶴を目の前に掲げた。ミオはなにがおかしかったのか、くすりと笑った。
「さすが。伊佐巳の辞書に不可能はないわね」
「もう1つ折ればもっときれいにできるよ」
「でも、この大きさでこれ以上作るのはあんまりだわ。今度はもっと小さな紙で作らない?」
 確かに、オレが今折った鶴は羽を広げたサイズが30センチもありそうな、巨大なしろものだった。ミオが折った1羽とオレが折った2羽だけで、テーブルの上はほとんど占領されている。