記憶・33
 ミオは立ち上がって、さっき紙を取り出した引出しから、同じ紙を2枚出して持ってきた。それらをテーブルの上に置く。折り紙というものは判らないが、そういうからにはこの紙を折って何かをするのだろう。オレが何も判らずにいると、ミオは言った。
「それじゃあ、伊佐巳。この2枚の紙を、それぞれ正方形に切ってください」
 まるで幼稚園児を扱うようだな。まあ、実際オレはほとんど生まれたばかりといってもいいくらいなのだけど。
 仕方がないので、オレは2枚の紙を互い違いに重ねて、はみ出した細長い部分に折り目をつけて切り取った。
 かなり大きな正方形の紙が二枚出来上がった。
「ありがとう。……では、まずはこの紙を三角形に折ってください」
 にこやかにミオは言い、2枚のうちの1枚で紙を折り始めた。オレもミオの真似をしてもう1枚の紙でミオの言う通りに折っていった。いったいこれでなにを作ろうというのか。オレはミオに聞いてみた。
「ミオ、先に教えてくれ。オレはなにを作ってるんだ?」
「その説明がまだだったわね。今作ってるのは折鶴よ。鶴」
 信じられなかった。この四角い紙が、本当に鶴になるというのだろうか。
「鶴、って、あの、飛んでる鶴だよね」
「そうね、飛んでる形に近いかしら。まあ、できてからのお楽しみよ」
 折り進むうち、最初は同じだった筈のオレとミオの紙は、だんだん別のものになっていった。ミオはものすごくきれいに作るのに、オレの紙は折れば折るほど変に歪んでいくのである。やがて完成することはしたが、オレが折ったものはほとんど紙のかたまりとしか思えなかった。ミオのはちゃんと鶴に見えるのに、オレのを見て鶴を連想する人間はいないだろう。