記憶・31
 オレはミオが興奮気味に話している理由があまりよく判らなかった。しかし、それがオレの記憶喪失の最大の謎であることは判る。そもそもなぜオレは15歳なのか。ただ記憶を失っただけならば、何歳でもよかったはずだ。たとえば32歳だって、たとえば10歳だって。
 オレは全ての記憶のない状態で目覚めたのだ。下手したら産まれた直後の、言葉すらしゃべれない状態になることだってありえたのだから。
 そうなんだ。オレの全ての感覚が15歳である必要だってない。オレの人生の中には、消灯が8時だったり11時だったりした時だっておそらくあったのだから。
「ミオ、オレの今は、本当に全部そのときのものなのか? 他の……たとえば、コンピューターの知識なんかも、そのときの記憶なのか?」
「そうね、それも話さなきゃ。伊佐巳が一番本格的にコンピューターをやっていたのは、最初の引越しの前だったの。引っ越してからも毎日やってたわ。でも、2度目の引越しのあとはしばらく離れてしまう。……さっき伊佐巳が作ったゲームは、1度目の引越しのあとに作ったものだと思う。なぜなら、伊佐巳が作ったゲームって、あたしが知ってる限りではたった1つだけなの」
「そのときも動かなかった?」
「いいえ。ちゃんと動いたはずよ。あたしはゲームの内容も聞いてるもの」
「その内容は教えてもらえないのかな」
「伊佐巳がどうして判らないのかが不思議だわ。アルファベットも数字も、全部伊佐巳自身が打ち込んだものなのに、どうして自分で判らないの? 文字の並び方を思い出すことができるのに、どうしてその意味を思い出せないの?」
 それは、オレの方こそが教えてもらいたかった。