記憶・23
 夕食はチャーハンだった。全体的に赤い色をしていて、よく見るとコンビーフが入っていることが判った。その他の具はタマネギだけだ。そのシンプルさはオレに、さっきの風呂場での出来事を思い出させた。
 あくまで想像でしかなかったが、もしかしたらここはかなり物資が不足しているのかもしれない。それとも、オレの記憶の糸口になる何かがあるのだろうか。たとえば、記憶を失う前のオレの生活が、この部屋の質素さと共通するほどの貧乏だったとか。
 味付けもざっくばらんだったが、味の方は見た目ほどは悪くない。いや、むしろおいしいとさえ思った。もしも過去にこのチャーハンを食べたことがあるとすれば、そのときもオレはこのチャーハンをおいしいと感じただろう。
「冷える前に食べたかったな。これ、うまい」
 ミオは自分の食事にはあまり匙をつけずに、オレの食事風景を眺めていた。
「そう? あたしはもう少しコンビーフが少ない方がいいと思うけど」
「これはオレが前に食べたことがあるものなのか?」
「そういう質問には答えられないわよ。自分のことなんだもの、自分で思い出そうよ」
 これは記憶をなくす前のオレの好物だったのかもしれない。だとしたら、オレはこのチャーハンをどこで食べていたのだろう。誰かに作ってもらったのか。それとも自分で作っていたのか。オレには、食事を作ってくれるような家族がいたのだろうか。
 食卓と家族。オレの向かいに座っていたのは、いったい誰だったのだろう。ミオ……だとしたらかなり不自然だ。16歳の年齢差は、夫婦とも、親子とも、兄妹とも当てはまらない。