記憶・22
 オレの記憶のデータは今でもオレの脳の中に眠っている。
 きっかけさえあれば、オレはそれを思い出すことができる。
 その考えは、オレの気持ちを楽にしてくれた。なぜなら、きっかけを与えつづければ、いつかオレの記憶の全ては戻るはずだったから。
「おなか、すいたでしょう? こっちへ来て一緒に食べない?」
 まるで子供にでも言い聞かせるように、ミオは言った。そういえばミオはオレが目覚めたときからずっとそんな態度を取り続けている気がする。そんなミオの態度を、オレも自然に受け入れていた。彼女のことを年上だと感じたあの感覚が、オレに不自然さを感じさせなかったのかもしれない。
 ミオはオレが気付くのをずっと待っていたのだろう。おそらく自分ひとりで食事をとることもなく。
「そうだな。……ごめんね、ずいぶん遅くなっちゃって」
「あたしはいいの。ただ、あんまり根を詰めると、伊佐巳の方が壊れちゃうわ。何もかも急に思い出したりしたら、脳みそがショートしちゃうかもしれないもの」
 オレは容量不足でフリーズしたパソコンの画面を思い浮かべて、ちょっとおかしくなった。