記憶・13
 オレは鏡の代わりにミオの顔を凝視していた。ミオはまだ少女だった。セミロングの髪をおかっぱの形に切りそろえて、大きすぎもせず小さすぎもしない眼に少しの哀れみを浮かべていた。彼女の方が少し年上なのだと思っていた。しかし現実は、オレの方がはるかに年上だった。
「ミオ、君は今いくつ?」
 オレを安心させるように、ミオは微笑んで言った。
「16よ。……今気がついた。あたしって、伊佐巳のちょうど半分なんだ」
 オレはなんだか自分が急に老け込んだ気がした。倍も年の違うオレのことを、ミオはオジサンだと思っているのだろう。
「信じらんねえ。なんでオレが32なんだよ」
「それを思い出して欲しいのよ」
 ミオのその言葉を聞いて、オレが最初からずっと感じつづけていた違和感の正体がようやくわかった。ミオは、オレが目覚めるずっと前から、オレが記憶喪失であることを知っていたのだ。ただ眠っている人間を見て、その人間が記憶喪失であるに違いないなどという判断を下すことなど、どんな名医にだってできはしないはずだ。記憶喪失は、本人の意識があって初めて判ることなのだから。
「ミオ……。オレの記憶を奪ったのは、君なのか……?」