記憶・11
「感覚は記憶とは違うのか?」
「そうね。あたしにもよく判らない。でも、たぶん記憶よりもっと深いところに根付いてるものなのよ。確かに伊佐巳は男性だもの。さっきあたしに名前を付けてくれたときも、伊佐巳はちゃんと女の子の名前を付けてくれたわ。これもきっと、感覚的な行動なのよね」
 記憶はないけど感覚はある。そうだ。オレは常識という言葉を何度か使った。オレの常識もたぶん感覚に属しているんだ。もしも感覚が失われていたなら、オレはミオが女の子であることも、まあ、美人ではないがかわいい子であることも、判らなかったことだろう。
「それじゃ、もう1つ質問。伊佐巳は何歳ですか?」
 オレは感覚にしたがって、答えていた。
「15歳……くらいだと思う」
 ミオはちょっと意外そうな顔をしたけれど、やがて含み笑いをもらした。
「では、3つ目。あたしは何歳くらいに見える?」
「そうだな。オレと同じか……少し上くらい」
「少し上くらい、ね。それじゃ、伊佐巳に鏡を見せるわ。驚かないでね」
 ミオは、用意していたのであろう鏡を、オレの方に向けた。オレはその鏡を覗き込んだ。