記憶・12
 驚くなというミオの言葉は、オレにはまったく効果がなかった。その瞬間、オレが目にしたのは、15歳の少年の顔などではなかったのだ。
 オレの中に再び恐怖が湧きあがってくる。これが、オレの顔。まさかと思って否定しつづけていた、夢の中の男の声。その言葉はあるいは正しかったのかもしれない。
 オレの顔はまさしく、あの男の顔そのものだったのだから。
 オレは絶句したまま硬直していた。鏡の中のオレも、引きつった驚愕を浮かべていた。恐怖と侮蔑の顔。オレが最も嫌悪した、あの顔。
 20台後半くらいに見える男は、オレの感覚とは全くずれた容姿をしている。
「……驚くのも無理はないわ。15歳の男の子がいきなり大人の男の人になっていたら、タイムスリップでもしたのかと思うわよね。だけど、これが今の伊佐巳なの。年齢は32歳のはずよ」
 32歳。オレは本当に32歳なのか? だとしたらオレはなぜ自分のことを15歳だなどと思っているんだ? オレの中の感覚は、これほどまでに信頼できないものなのか?
「これ以上見ないほうがいいわ」
 そう言ってミオは鏡を隠してしまった。