記憶・5
「目が、醒めたの?」
 目覚めたオレを最初に迎えてくれたのは、そのやわらかな声だった。
 無意識のうちに目を開けると、まぶしい光に包まれて、1人の少女がオレを心配そうに見つめているのが見えた。
「あたしの姿が見える?」
 少女がオレを心配しているのだということがよく判った。見つめたまま、軽く首をかしげるようにしている。オレは早く彼女を安心させてやりたいと思った。
「……あ……あぁ……」
 この少女は誰だろう。オレは記憶を辿ろうとして、一瞬のうちに夢の全てを思い出していた。オレはまた夢の中と同じ事をした。自分は誰なのかという問いかけ。しかし、オレの中には何の記憶もない。
 これは現実なのか。まだ夢の続きなのか。現実ならばなぜオレは自分のことが思い出せないのだ。現実でもオレは記憶を失っているというのだろうか。
 オレの中に再び恐怖が湧きあがる。それは先ほどのようなどこか落ち着かない恐怖ではなく、突き上げてくる現実への恐怖。
「ああ……ぅうわああああぁぁぁぁぁ……!」
 叫ぶことで恐怖を忘れたかったのかもしれない。そんなことで恐怖が忘れられるのか、それらを冷静に吟味する判断力はオレにはなかった。