真・祈りの巫女302
 シュウの頬を叩いた瞬間、探求の巫女はまるで自分が叩かれたかのような表情をした。唇を歪めて涙を浮かべた探求の巫女は、テーブルに身体をぶつけながら宿舎を出て行ってしまったの。あたしはシュウの名前を鋭く呼んだけど、シュウも驚いてしまってとっさに動けなかった。……だめだよ。外に出たら万が一にもリョウと会っちゃうかもしれないもん。だけど今シュウとタキを2人だけにはできない!
「タキお願い、探求の巫女を追いかけて! 昨日の雨で地盤が緩んでるわ。もしも万が一のことがあったら ―― 」
「……判った。連れ戻してくるよ」
「いいわ。見つけたら直接長老宿舎に連れて行って!」
 タキが判ったという風に手を振りながら扉を駆け出していったから、あたしはほっとしてシュウを振り返った。……なんだかすごく打ちのめされた顔をしていたの。もしかしたら、シュウが探求の巫女に叩かれるのはこれが初めてだったのかもしれない。
「ごめんなさい。……今度こそあたしのせいね」
「……いや、原因を作ったのはオレだよ。祈りの巫女は悪くない」
 シュウはあたしを気遣ったのか、顔を上げて微笑みかけてくれる。でも心の中が探求の巫女のことで一杯なのは判った。
「よかったら話してみて。……そのトツカという人はシュウと同じで、探求の巫女とは12年くらい会ってなかったの?」
「いや、同じじゃないんだ。オレは子供の頃のトツカのことはほとんど覚えてなくてね。ユーナによればそいつはユーナよりも先に引っ越したらしいから」
「覚えてないの? だって近所に住んでたんでしょう? 4歳くらいの記憶だったらふつう残ってるわよね」
「まあね、近所は近所なんだけど、トツカはオレより3歳か4歳くらい年上だからね。その頃にはガッコウに通ってたはずだし、それだけ年が離れてれば一緒に遊んだりはしないよ。ほかにも遊び相手はたくさんいたしさ。ユーナがトツカを覚えてるのはたぶん、ユーナの父親とトツカの父親が仕事仲間だったからだ。……トツカってさ、ユーナの初恋の相手なんだよ。ユーナと再会したその日にそう言われた」
 そう言って、シュウは大きな溜息をついてテーブルに突っ伏してしまう。……奇妙な類似性を感じる。あたしにとって死んだシュウはきっと初恋の相手だった。探求の巫女にとってそれはリョウで、今は互いに交換したようにもう1人の人と恋人になってるんだから。