真・祈りの巫女101
  ―― 夢を、見ているんだと思うの。
 きっと目が覚めたら、あたしは3日前、マイラに会いに行く日の朝に戻ってる。ライと幸せな時間を過ごしているマイラの顔を見て、その足で母さまに会いに行って、いつものようにマティの酒場でリョウと待ち合わせて、神殿までの道をデートする。もちろん巫女たちの会議でも変わったことは何もなくて、神殿前広場にも避難所なんかないんだ。平凡で、優しくて、幸せな毎日がずっと続いていくの。
 リョウに会ったらあたしは言うんだ。ゆうべ、村が災厄に襲われて、リョウが死んじゃう夢を見たんだよ、って。リョウはいったいなんて答えるだろう。きっと、ちょっと怒ったように「どうしてオレが死ぬんだよ」って言って、そのあとあたしを抱き寄せながら「ユーナを残してオレが死ぬ訳ないだろう?」って言ってくれる。あたしに微笑みかけて、安心させてくれる。これは夢だから、父さまや母さまが死んだのも、リョウが死んだのもぜんぶ、本当のことじゃないんだよ、って。
 そして、その翌日にはリョウがあたしの両親に会うから、いよいよ結婚の話が現実になるんだ。14歳の時に気持ちを確かめ合って、15歳の時に婚約のしるしの髪飾りをもらった。あたしが16歳になって、リョウが20歳になるまでずっと待ってた結婚が、とうとう現実のことになるの。
 これは、悪夢だよね、リョウ。リョウはぜったいあたしを残して死んだりしないよね。
 だって、リョウは約束してくれたんだもん。オレはずっとユーナのそばにいる、って。これからもずっと、オレはユーナを守っていく、って ――
  ―― 目が覚めたとき、あたしは自分が涙を流していることに気がついた。夢を見ながら泣いてたみたい。あたし、そんなに悲しい夢を見てたのかな。こんなこと初めてだったから、あたしはちょっと驚いて、ベッドから身体を起こした。
 顔、洗わなくちゃ。そう思って立ち上がろうとしたら、なんだかうまく足に力が入らなかったの。ベッドの下に崩れ落ちるようにしゃがみ込んでしまって、その衝撃でふっと、昨日の夜のことを思い出したんだ。
 そう、ローグがいたの。あたしの肩を何度も優しく叩きながら、繰り返し「落ち着いて、祈りの巫女」って言ってた。不思議な香りのする飲み物を飲ませてくれた。あたしが、今は何もかもを忘れてゆっくり眠れるように、って。