真・祈りの巫女99
 空気が、普通じゃないんだって思うの。だって天井の窓から満月に近い月明かりが斜めに差し込んできていて、ちょうどあたしとランドとの間に突き刺さってるようなんだもん。月の光が鋭く空気を貫いているんだから、その空気が人の言葉をちゃんと伝えられなくたってぜんぜん不思議じゃない。だから、ランドが言った言葉と、あたしが聞いた言葉が、同じ言葉であるはずなんかないんだ。
 あたしはいったい何を聞き間違えたの? ランドは本当は何を言いにきたの? ……そうだ、ランドがここにいるんだから、きっとリョウだって近くにいるよ。守護の巫女はこのあとしばらく影が現れないって言ったんだもん。狩人だってもう休んでいいはずなんだ。それなのに、リョウはどうしてあたしに会いに来てくれないの?
「リョウは? ……ランド、リョウはどこにいるの……?」
 まるで込み上げてくる感情を抑えるみたいに、ランドは顔を伏せた。
「村の……南側の草原だ。今、狩人の仲間が何人かで、影の足の下から引っ張り出してる……」
 言葉の途中でランドはうめきを漏らして口を抑えた。あたしの肩に置いた手に力が入って、肩に食い込んできそう。ランドの言ってること、あたしよく判らないよ。どうしてリョウを一緒に連れてきてくれなかったの?
「リョウに会わせて。ランドの話じゃ判らないもん。ランド、リョウがいるところに連れて行って」
「ダメだ! ……おまえに会わせる訳にはいかねえよ。あんな……。ユーナ、リョウはもう人間じゃねえんだ。……損傷がひどいなんてもんじゃねえよ! リョウだって、おまえにあんな姿を見られるなんてこと、望んでる訳がねえ……」
 ランドは必死で自分を押さえ込んで、でもどうしても抑えきれなくて、苦しそうに身体を折ったままうめきつづけた。
「あいつ、無茶しやがって。影がどんな生き物なのかまだ判ってねえってのに、独りで向かっていきやがって……。あっという間だった。悲鳴を上げる暇もねえくらいあっという間で、影の足に巻き込まれて、そのあと身体がバラバラになっちまって ――
 確かにあいつは影を1つ殺したよ! だけど、あいつの命と引き換えなんて、そんなバカな話あるかよ!」
 ……リョウ、なんとか言ってよ。ほら、ランドったらひどいよ。リョウがバラバラになっちゃったとか言ってるよ。あたし、判ってるんだから。ランドはあたしをからかいにきて、リョウはきっとそのへんに隠れてて、あたしが本気にするのを笑って見てるんだ、って。