祈りの巫女2
「ユーナ、さっきマイラの使いの人がきたのよ。儀式用の衣装の仮縫いが終わったのですって。試着にきて欲しいそうよ」
 帰るとすぐに母さまがそう言って、あたしの手から花篭を取り上げた。赤い花びらが少しだけこぼれる。
「儀式の時までに爪を染めようと思って取ってきたの。捨てちゃダメよ」
「判ってるわよ。マイラを待たせないで」
「はい、行ってきます」
 あと10日で、あたしは13歳になる。13歳になったらあたしは祈りの巫女の称号を継ぐ。どうしてなのかは判らないけど、あたしは生まれたときからそう定められていた。母さまも父さまも、守りの長老もそう言ってたから、あたしもずっとそう思ってきた。儀式ではきれいな衣装を着られるから、あたしは誕生日のその日を楽しみにしていた。
 マイラの家は村の外れの方にあって、ほとんど森との境目のようなところだった。その森はあたしは少し怖かった。だから、マイラの家も、ほんの少しだけ怖い。そんな思いを振り切るように坂を登って歩いていると、向こうからリョウが歩いてくるのが見えた。
「リョウ」
 リョウは4歳年上で、16歳になっている。狩りの仕度が良く似合っていて、もう一人前の男の人だった。小さな頃は良く遊んでもらったけど、最近はそうでもない。リョウもあたしを見つけて微笑みながら近づいてきてくれた。
「リョウ、あたしこれからマイラのところで衣装合わせなの。リョウも見てくれない?」
 ほんの少しまぶしそうに目を細めて、リョウは言った。
「残念だけど、これから帰って獲物をさばいてもらわないといけないんだ。ユーナの衣装を汚しても悪いしな」
 見ると、確かにリョウは身体に狩りたての北カザムの子供をいくつかぶら下げていた。