記憶�U・52
 オレはいつでも、この男を殺したいと思っていた。オレの人生のすべての瞬間を支配しつづけていた男。オレの記憶を操り、感情を操り、思い通りに動かしてきた。死んだミオに恋をした。死んだ勝美に恋をした。そして、オレはまた、オレが名づけた少女に恋をした。
 オレの恋する心すら、この男は思い通りに支配してきたのだ。
「……で、今度はどんなレールを用意したんだ」
 勝美。何も知らずに殺された勝美。君はオレを許してくれるだろうか。
「俺の娘を幸せにする」
 葛城達也はそうとしか言わなかった。
 現われたときと同じように、葛城達也はその姿を消していた。傍らに寄り添っていたアフルと一緒に。アフルが吐きだした血の跡も、2人が消えると同時に消滅していた。この一瞬がまるで夢の中の出来事のように思えてくる。
 オレは罪を犯した。だとしたら、これはオレに対する罰なのだろうか。1人の少女に恋をした。オレが恋した、オレが名づけたミオは、この3年間、葛城達也にとって失われた2人の娘の身代わりだったのだろう。自殺したミオと、殺された勝美。その2人を娘として愛することのできなかった葛城達也は、ミオを愛することで償いをしていたのかもしれない。
 だとしたらオレはどうやって償えばいいのだろう。葛城達也の用意したレールは、オレにとっては1番残酷な償いの道だった。オレの父はオレの人生を支配し、レールを引き続ける。そしてオレは、そのレールの上にしか生きる道を見出すことができないのだ。
 不意に、視線を感じて顔を上げた。いつからそうしていたのだろう。ドアの前に立ち尽くして、オレをじっと見ている、少女の視線とあった。
 この少女を愛している。だけど、オレには少女を幸せにする資格はない。