記憶�U・49
 現実に引き戻され、目を開けたとき、オレは例の巨大なベッドに寝かされていた。最初に目に入ったのは目を閉じたアフルの顔。ずっとオレの状態をモニタしていたのだろう。目を開けたアフルはオレの頭部に添えられていた手をゆっくりと外して、少し疲れたというような笑みをもらした。
 覗き込んでいるミオの姿も視界の隅にちらりと見えた。だけどそちらはあえて見ないようにして、オレは身体を起こし、アフルに言った。
「あれから5日……で、間違いないのか? オレにはもっとブランクがあるか?」
 いつもの優しい微笑を浮かべて、アフルは答えた。
「大丈夫だよ。それ以上のブランクはない」
「コロニーの連中はどうなってる。オレが眠ってる間に取り返しのつかないことにはなってないか?」
「おととい、コロニーのボスと皇帝との会談が持たれたよ。その後の彼らの処遇については皇帝はまだ結論を出していない。ただ、その会談で皇帝はかなりの手ごたえを得たとオレは思ってる。たぶん、皇帝はコロニーのボスの命を助けると思う」
 アフルの言葉でオレは多くの心配事の1つを解消できて、いくぶんほっとした。だけどまさかそう簡単に皇帝葛城達也がコロニーを解放する訳がない。
 コロニー ―― あの悪夢の災害によって東京に置き去りにされた人々は、敗戦後3年目の今から5日前、再び決起したのだ。3年前の雪辱を果たすべく、武器を揃え、綿密な作戦を携えて。
 だけど、結果は誰もが予想したとおりだった。コロニーは再び敗れ、オレたちは皇帝の囚われ人となったのだ。
「お前は聞いているんだろ。葛城達也はいったいどんな条件をつけた」
 アフルはほとんど迷わなかった。コロニー側のオレに、皇帝の考えを漏らすという行為に。
「コロニーの残党の中に希望者がいれば、皇帝は保護を約束すると思う。人質になっていた人もそうでなかった人も条件は同じだ。だけど、コロニーのボスと側近の駄蒙、それに、黒澤伊佐巳の3人についてはまったく別の話だ。……革命の責任を取る人間が皇帝には必要なんだ」
 全員が殺されても文句の言えない状況なのだ。それが3人だけで済むのであればめっけものだ。……オレは、今まで17年もの間、葛城達也に逆らいつづけてきた。オレの命1つですべての人の命を救うことができる。オレはいつでも覚悟はできている。
「……で、葛城達也はオレを殺すことに決めたんだな」
 ボスの命を助けるのであれば、それしかない。しかし、アフルは答えなかった。答えることができなかったのだ。
「グ……ゲホッ! ……グブブッッ!!」
 突然、アフルは身体を折って、咳と一緒に大量の血液を吐いたのだ。