記憶�U・45
 この男は、オレの記憶を監視する者。葛城達也の姿で存在する。それは仮面なのか? 奴は葛城達也ではなく、別の顔も持っているのか?
「ざまあねえ、アフルストーン。てめえはほんとにそいつが正しいと思ってるのか? 記憶が蘇った方がいいと本気で思ってるってのかよ」
「正しいか正しくないか、そんなことはどうだっていいんです。私は伊佐巳の親友として、伊佐巳の希望をかなえたいと思うだけです」
「俺がここで見張ってるんだぜ。判ってるのかよ」
「理解していますよ。伊佐巳が記憶を取り戻したらどうなるか、その予測も立てることができました。あなたの正体も判るし、あなたがなぜその姿で監視者をしているのか、その理由も判っています。あなたが伊佐巳を、そしてミオを心から愛しているのだということも」
「黙れ!」
 アフルの言葉にうろたえていたのは、葛城達也だけではなかった。奴がオレを愛している? オレだけではなくミオも愛しているというのか? ……アフルの言う通りだ。奴は葛城達也ではありえない。少なくともオレが知っている葛城達也ではない。オレが知らない葛城達也がオレの中にコピーされているはずはないんだ。この葛城達也には、別の人格が存在する。
 オレを愛する葛城達也は、オレの記憶が戻ることを望んでいない。オレは記憶を取り戻すべきではないのか?
「伊佐巳、心を揺らすな。お前はすべてを思い出したいのではないのか?」
 アフルが言って、オレは気付いた。葛城達也の表情が変わっていた。うろたえきった顔から、不敵な笑いを浮かべたあの顔に。
「伊佐巳が揺れていてはオレは自分の力を発揮することはできないよ。葛城達也を消したいなら、奴の正体を知りたい、記憶を取り戻したいって、本気で願ってくれ。ここでは伊佐巳の意思がすべてなんだ」
「言っても無駄さ、アフルストーン。そいつには自分の意志なんてねえんだ。周りに流されて、周りの言うことを自分の意志だと勘違いしてやがる。情けねえ男さ。好きな女1人抱くこともできねえ」
「伊佐巳! 惑わされるな! お前は自分の意志でオレをここに連れてきた。自分のことをすべて知りたいからだろ?」
「アフルストーンが勝手につれてきちまったんだよな、伊佐巳。お前は何もしらねえままミオとヨロシクやってたかっただけじゃねえか。記憶なんか戻らなくてもいい、そう思ってたじゃねえかよ」
 オレの意思。オレの意思が問われている。オレは記憶を取り戻したいはずだ。そのためにここにくると決心したはずだ。たとえなにが変わろうと、ミオの存在がオレの中でどう変化しようと、それを受け入れると決心して、ここに来たはずだ。
 だけど今、オレは真実を恐れている。