記憶�U・41
「昨日はすまなかったね。話の途中だったのに」
 オレは自分ではそう無愛想な表情をしているつもりはなかったけれど、人の感情に敏感なアフルには、オレが昨日のやりとりを思い出して少し緊張したことが伝わったのだろう。アフルが今でもオレを親友と呼ぶならば、オレはアフルを無条件で信じるだろう。だけど、オレの目を見てそう言えないほどにアフルが変わってしまったのならば、オレ自身、アフルにすべてを委ねてしまうことはできないだろう。
 アフルは、オレの心を読んでいる。1度だけ目を伏せるようにしたあと、今度はしっかりとオレの目を見て、アフルは言った。
「オレは今でも伊佐巳の親友として恥ずべきことは何ひとつしていないつもりだ。オレは葛城達也という人間の命令を受けて行動してる。だけど、その命令は今の伊佐巳を窮地に陥れるようなものじゃない。葛城達也の命令と、オレの伊佐巳に対する友情とは、今のところ矛盾していないよ」
「信じていいんだな」
「オレを信じて欲しい」
「……判った」
 オレの記憶が戻るのならば、アフルにすべてを委ねようと思った。記憶さえ戻ればオレは本当のオレになれる。昨日アフルが語った現在の状況も理解できる。オレが今どういう立場にいて、これから何をするべきかも。
 昨日と同じように、アフルはオレをベッドに座らせた。ミオはテーブルの方に腰掛けて成り行きを見守っている。アフルは両手を差し出して、オレの目の前でいったん止めた。オレが頷くと頭部を包み込むように触れてきた。
「少し脳の内部を探るから、楽にしていて。眠ってしまってもかまわないよ」
 オレは目を閉じてアフルに触れられるに任せていた。以前はアフルに触れられると多少気が散るような、落ち着かないような感じがあったけれど、今回はそういう変化はまったくなくて、アフルがオレの中にいるのだということすら感じなかった。この17年でアフルの感応力は上がっているのだろう。やがてアフルはオレの頭を抱きかかえるような格好になって、オレもアフルの胸に頭の重さを委ねていた。
「……最新のCPUで動く17年前のOSか。記憶の物干し竿の構造。……面白いね。伊佐巳の中に具象化されたイメージがある。……だいたい、見えたよ。これから伊佐巳にも見せる。用意はいい?」
 声を出さずに頭の中だけで、オレは答えていた。