記憶�U・40
 いつもの起床時刻より早く、オレは目覚めていた。身支度をして、朝の体操をして、ミオを待つ。だけどミオは現われなかった。少し気にはなったけれど、おそらく朝食の時刻までには現われるだろうから、オレは気持ちを切り替えてパソコンのスイッチを入れた。
 そういえば、昨日アフルに会った時、このパソコンについては何も訊くことができなかった。だけど、3年前に地球が壊れてしまったということは、それまで発達してきたパソコンのネットワークというものは既に存在しないのだろう。オレが知らない17年間のうちに、そのネットワークはどれだけ発達していったのか。おそらくオレの想像が及ばないほどの進化を果たしたのだろう。
 昨日できなかった階層の探索をオレは始めた。すると、そこでいくつかの気になるファイルを見つけたのだ。今のオレがファイルをいじることは危険なので、中を確認することはせず、場所だけ覚えて次を探索した。そうしていくつかのファイルをピックアップして、食事の時間が近づいてきた頃、やっとミオが現われていた。
「ごめんなさい、伊佐巳。あたし、寝坊しちゃって」
 ミオはおそらく、昨日まではゆっくり眠ることもできなかったのだろう。
「そんなことだろうと思ってた。おはよう、ミオ」
「おはよう、伊佐巳。とりあえず食事にしましょう」
 ミオがトレイを運んできて、朝食が始まった。食べながら、ミオは少し心配そうな表情で言った。
「朝食が終わったら、あたしがアフルを呼びに行くことになってるの。……それでいい?」
 ミオは何を心配しているのだろう。オレがミオを忘れるかもしれないと? 記憶を思い出したら、オレはミオを好きな気持ちさえ、忘れてしまうのだろうか。
「オレが信じられない?」
 オレが言うと、ミオは笑顔で首を振った。信じていて欲しいと思う。確かにオレは年下だし、頼りないかもしれないし、ミオが信頼するパパとは似ても似つかないかもしれないけど、ミオを好きな気持ちはきっと、誰にも負けないはずだから。
「アフルを呼んでくるわ」
 そうして、トレイを持って部屋を出て行ったミオが再び戻ってきたとき、ミオのうしろには、昨日よりも少し疲れたように見える、アフルの姿があった。
 アフルはオレを見上げ、オレが知る優しそうな笑顔で微笑んだ。