記憶�U・7
 オレの感覚では、オレはほんの数日前まで、葛城達也のために働いていた。プログラムを作ったり、1週間前のある事件で作戦を立てて組織の人間を動かしたりした。オレは確かに組織に必要な人間だったかもしれない。だけど、それはオレがそう教育されたたくさんの人間のうちの1人だったというだけで、もしもオレがいなかったとしても葛城達也はそう困りはしなかっただろう。
 オレは確かにあいつの息子だった。だけど、愛情を受けた覚えもなかったし、奴もオレが息子だからという理由で特別な感情を持っていたとは思えない。だから、ミオの言葉に同感はなかった。葛城達也がオレを必要としているはずはなかったのだ。
「どうしてミオはそんなことを思う? オレが奴の息子だからか?」
 ミオは唇をきりりと結んで、表情でオレの言葉を否定した。オレはちょっとドキッとした。もしかしたらオレは、ミオを低く見積もり過ぎていたかもしれない。
「あの人が伊佐巳を必要としているのは、愛情があるからとか、役に立つからとか、そういう理由じゃないわ。あたしはこれ以上のことは言えない。なぜなら、この話は、伊佐巳のこれからの記憶に深く関わっているから」
 ああ、そうだった。ミオはオレの記憶について話すことは許されていないのだ。
「どうやっても思い出さないとならないらしいな」
 オレのこれからの17年。それを思い出さなければ何も判らない。思い出せば判るのだろうか。葛城達也のことも、ミオのことも。
 ミオは本当は、誰の味方なのだろう。
「思い出せるわ。だって、伊佐巳は思い出したんだもの。自分の力で、15年間の記憶を」
 知りたい。ミオがオレと葛城達也と、いったいどちらを選ぶのか。
「ミオ、もしもオレが記憶を取り戻したとき、オレと奴とが敵同士だったら……」
「伊佐巳の味方になるわ」
 間髪入れず、ミオはそう答えた。