記憶・88/再送(5/30分)
 ミオは、記憶が戻ったあとのオレの気持ちが変わってしまうことを恐れていたのかもしれない。
 オレの過去をすべて知っているミオ。オレには想像がつかないけれど、すべてを思い出した後もオレの1番がミオであるという保証はないのだ。ミオがそれを恐れたということは、32歳のオレには既に恋人がいるということなのだろうか。
 いや、もしもそうだとしたら、ミオはきっとOKなんかしなかった。……ダメだ。オレの貧困な想像力ではピッタリくる図式を見つけることができない。
「ミオ、実はオレ、少しだけだけど思い出したことがある」
「本当?」
 ミオは喜びを素直に顔と声に出した。
「少しだけなんだ。オレにとっての今、15歳だった時代が昭和60年9月で、ロス疑惑のニュースを読んだ。8月だったか、飛行機事故があって、500人以上亡くなった。それと、オレはたぶん、1人の女の子と暮らしていたってこと」
「すごいじゃない。そんなに思い出してたの?」
「まだあるんだ。……あの、例のプログラムのパスワード、思い出した」
 そう言った瞬間、ミオの表情がわずかに引き締まった。
「……そう。それで、伊佐巳はどうするの? プログラムをもう一度開いてみる?」
 訊かれて、改めて考えた。オレはあのプログラムを見てみたいと思っていた。今でも変わらない。だけど、オレは今やっと、ミオに気持ちを打ち明けることができたばかりだ。
「今日はもういいよ。それより、オレの記憶の事を教えて」
 その答えを聞いて、ミオもほっとしたような顔をした。
「すごく正確よ。……伊佐巳は昭和60年の9月、1度目の引越しをしたの。飛行機事故が起きたのは8月だった。1度目の引越しのあと、ロス疑惑の容疑者が逮捕されて、伊佐巳もそのニュースを読んでいるわ。女の子と暮らしていたのも合ってる。それ以上、思い出したことはあるの?」
 オレが思い出した最も重要な部分については、ミオに話すのは少しためらわれた。