記憶・86
「前に伊佐巳にも話したことがあると思う。あたしには親友がいて、その子といろいろ話してた。……詳しく話せないけど、あたしたちは今、とても切羽詰った事情があって、あたし自身、誰かを好きになったり、そういうことを考える余裕はなかったの」
 ミオに告白したことを後悔はしていなかったけど、オレの告白が、余裕のないミオの現状を乱してしまったことは確かだった。伝えられただけでもよかったかもしれない。そう、思った。
「でも、あたし、彼女に言われた。余裕があるかどうかなんて、恋愛にぜんぜん関係ない、って。伊佐巳の気持ちはちゃんと受けとめるべきだって。だから、あたし、自分の気持ちを考えた。あたし自身が好きなのは誰なのか、って」
 ミオは、初めて見るように、オレに微笑んだ。
「あたし、伊佐巳のこと、好きになってもいいかな」
 心臓が止まるかと思った。