記憶・46
「ミオ。オレは君にとって守るべき存在なのか?」
 ミオはオレを見つめたまま何も言わなかった。
「オレは今どんな状況に立たされてるんだ? 誰か、オレを害するような人がいて、ミオはそんな人からオレを守ろうとしてるのか? だからミオはオレに対して保護者のような立場になってしまうのか?」
 そうだとも、違うとも取れるような表情で、ミオは沈黙を続けた。
「それって、もしかして君の雇い主の人……」
「違うの!」
 オレの言葉を遮って、ミオは続けた。
「あの人はそんなこと考えてないわ。純粋に伊佐巳の記憶を取り戻したいと思ってる。伊佐巳のことを、本当に心配してるの。だから……そんなこと考えないで。あたしを信じて」
「何も教えてくれないで信じろって方が強引だと思うけど」
 オレは引っ込みがつかなくなってしまっていた。だが、そんなオレの言葉に、ミオは少し態度を変えたのだ。
「……そう、かな。そうよね……」
 もしかしたら少しは具体的な話を聞けるのかもしれない。オレは微かな希望を持った。そんなオレに、ミオは静かに話し始めた。
「雇い主のことについて、1つだけ教えてあげるわ。……彼はね、伊佐巳の身内なの。だから、伊佐巳のことが心配で、伊佐巳の記憶障害がすごく心配で、この部屋を用意して、あたしを雇ったの。彼は何年も前からこのことを計画してた。あたしは何度も彼と話し合って、伊佐巳の記憶をどうやって導いていくか、詳しく伝えられたの。だから……お願い、あたしと彼を信じて。伊佐巳のこと、1番心配してるのは、間違いなく雇い主の彼だってこと」