記憶・44
「伊佐巳、ひょっとして嫌な夢を見たの?」
 ミオはなぜこんなに心配そうな顔でオレを見るのだろう。そんな目でみるほどオレは頼りないのか。ミオの回りの男たちに対しては、ミオはきっとこんなに心配することはないのだろう。
 オレは頼りない。オレは、ミオには男に見えていないんだ。
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。別にあんな夢くらい、ただの夢なんだから」
 もしかしたらオレは少しつんけんしていたのかもしれない。ミオはオレに近づいてきて、オレの肩をいたわるように抱いたんだ!
「伊佐……」
「さわるな!」
 反射的に振り払ってから後悔した。オレはミオを傷つけようとしたわけじゃない。だけどミオは驚いたように、悲しそうに、振り払われた手を戻すこともせずに立ち尽くしていた。
「……ごめん。なんでもない。ちょっと、いらいらして」
 ミオがオレの態度をどう感じたのか、オレに知る術はなかった。
「……何か、気に障ったみたいね。あたしの方こそごめんなさい。……食事、運んでくるわね。先に着替えていて」
 そう言って、ミオは部屋を出て行った。オレはミオが戻ってくる前に着替えてしまおうと箪笥の前まで行く。着替えながら考えた。どうやって伝えたらいいだろう。オレの苛立ち。オレがミオを気にしているということ。オレのことをちゃんと見て欲しいこと。オレは子供じゃない、15歳の健全な男なのだということ。