記憶・45
 ミオはしばらく戻らなかった。オレはミオに謝る準備を完璧に整えて待っていたから、その緊張感が少し緩んでしまっていた。だからトレイに載せた食事を持ってミオが現れたとき、オレは少しタイミングをはずしてしまった。その間隙を縫ってミオが言ったのだ。
「ごめんなさい、なんかあたし、伊佐巳のこと年下だと思いすぎてたみたい。お姉さんぶってしまって。……ごめんなさい」
 オレは謝るタイミングと、ミオに自分の気持ちを伝えるタイミングとを、同時にはずしてしまっていた。
「……オレのほうが悪かったんだ。ミオは一生懸命心配してくれたのに」
 具体的なことを何ひとつ口にできないまま、朝食が始まっていた。食事は質素極まりなかった。白いご飯と、タマネギだけの味噌汁、おかずといえるのはタマネギをカレー粉で味付けただけのものだ。オレはそれでも構わないが、育ち盛りのミオにはあまりに質素すぎるだろう。もう少しまともなものはなかったのだろうか。
「ミオ、昨日も思ったけど、ここではあんまり物資が充実してないのか?」
 あまりおいしくもないのだろう。僅かずつ箸をつけながら、ミオは答えた。
「あたしにはなんとも言えないわ。伊佐巳が全てを思い出してくれなきゃ」
 ミオはオレに対する態度を決めかねているように見えた。さっきの出来事がオレとミオとの距離を少しだけ遠ざけてしまっていた。
 さびしいと思った。これなら子供扱いされていた方がいい。