記憶・28
 本当にミオの言う通りだとしたら、オレはこの32年間を無駄に過ごしてきた訳ではないということだ。生きてきた過程で最初に本当の記憶を奪われたときも、オレは地に足をしっかりつけて、自分の力で歩いてきた。
 今のオレにそのときと同じことができないはずはない。オレは必ず、この困難も克服できるはずなんだ。
「ミオ、差し支えない範囲で、君のことを話してもらうことはできない? 君の生い立ちとか、家族の話とか」
 ミオはちょっと困ったようだった。
「そうね、……どこまでなら話せるかな。あんまり伊佐巳の記憶を刺激するようなことは話してはいけないことになってるのよね」
 オレが思った通り、ミオはオレとの会話について、雇い主からかなりの束縛を受けているのだ。
「それは、オレとミオに過去のかかわりがあったってこと?」
「伊佐巳、それって誘導尋問よ。お願いだからあたしから情報を引き出そうとしないで」
 そんなつもりで言ったのではないのだが、オレはひとつ頷いた。
「家族のこと、か。……あたしね、パパがいるの。もう3年くらい会ってないんだけど」
 具体的な話を始めたミオに、オレは気持ちが高ぶるのを感じた。