記憶・27
 まるで意外だった。オレは今まで、ミオは普通の16歳の少女なのだと思っていた。ごく普通の家庭に生まれ、両親の愛情に包まれたごく普通の幼少期を過ごし、少し前まではごく普通に高校に通っていただろう、どこにでもいる16歳の女の子。オレの世話のために雇われてからは学校へは行っていないのかもしれないが、これまでの彼女を見ていて、普通の少女と何かが違うという印象はオレは持たなかったのだ。
 だけど、今の彼女は違った。
 彼女は、確かに戦士なのだ。彼女の心は戦う者のそれなのだ。どこがどう違うと言葉に表すのは難しいかもしれない。ただ、ミオの傍らにはいつも戦いがあり、戦いに慣らされ、戦いに傷つけられてきたのだ。
 オレにはそれが判る。おそらく、オレも戦う者だったからだ。オレの身体は戦いに慣らされ、そして精神は戦いに傷つき鍛えられている。
 ミオの、オレを守るという言葉には、過剰ではない自信が見え隠れしている。
「オレを、守ってくれるのか?」
「おかしいかな。こんな小娘にこんなこと言われたら、プライドにかかわる?」
 ミオの言う通りかもしれない。だが、オレはその言葉に安らぎの心地よさを感じた。
「ちょっと意外だった。そんなにオレは頼りないかな」
「それはないわよ。状況を何もかも理解してる伊佐巳なら、これほど頼りになる人はいないわ。でも、今の伊佐巳は言ってみれば生まれたばかりの子供と同じだもの。どんな大きな木だって最初は小さな双葉から育ってゆくのよ」