記憶・19
 ミオを雇った人間は本気なのだ。オレを閉じ込め、オレの記憶を取り戻すためだけにこれだけの広さの部屋を用意した。オレの記憶にはいったい何があるのだろう。オレが記憶を取り戻すことが、ミオを雇った人間にどんな利益をもたらすというのだろう。
 オレの記憶には、どんな秘密があるのか。
 俺が生きてきたという32年間の間に、いったい何があったというのか。
 思い出したい。早く思い出して、この殺風景な部屋から飛び出したい。
「……パソコン……?」
 オレが外の世界を知るチャンスがあるとすれば、それはあのパソコンしかないんじゃないのか?
 もしもあれが、外の世界につながっているものならば。
 オレはテーブルのところから椅子をひいて、パソコンの前に座った。
 ほとんど無意識の動作だった。パワースイッチを入れて、画面の変化を見つめる。かすかな音とともにハードディスクが目を覚ます。その音を聞いているだけで、オレの心が躍った。
 そうだ。これはオレの一部だ。
 オレの記憶装置。オレの仕事場。オレの自由な時間を支配していたもの。オレの相棒。
 オレの生活の中に根付いていたものだ。これがなければ、オレはオレじゃなかった。
 それからのオレは、まるでそのパソコンのパーツの一つになってしまったかのように、ただキーボードを打ち続けた。