記憶・18
 オレは風呂場に来た本来の目的を思い出して、身体を洗った。風呂場にはシャンプーや固形石鹸は一切なく、袋詰の粉石鹸が置いてあるだけだ。その袋にも説明書きのようなものは一切なかったので、オレはしばらく迷った末、その粉石鹸で身体も髪も洗うことにした。泡を流してよくよく見回してみると、壁面も足元も全てコンクリートに白いペンキを塗っただけのもので、よくありがちなタイルや小物置のような、いわゆる装飾類のものはひとつも置いてはいなかった。
 部屋もベッドも、風呂場の面積も、まるで高級マンションかと思うほどの広さがあるというのに、備品がほとんどないこの風呂場は異様な光景だった。風呂場から出て改めて回りを見回して驚いた。部屋にあったのは、例の巨大なベッドのほかには、一組のテーブルと椅子、小さな箪笥と、部屋の隅の方にひっそりとパソコンが一台あるだけだったのだ。
 ここは、いったいどこなのだろう。
 オレの記憶を取り戻すためだけに用意された、特別な部屋だとでもいうのだろうか。
 窓はひとつもない。外界との唯一の接点であるドアは、そこだけがまるで未来都市の一部であるかのように、電子ロック式で暗証番号を入力しないと開かないような構造になっている。あのドアはミオにしか開くことができないのだろう。オレは完全に閉じ込められているのだ。おそらく、オレが記憶を取り戻さない限り、あのドアの外に出ることはできないのだろう。