記憶・20
 プログラムの最終行を打ち込んであたりを見回すと、テーブルに肘をついてミオがオレを見つめている視線と合った。
 オレはいったいどのくらいの時間、文字を打ちつづけていたのだろう。そして、ミオはいったいどれだけの時間、オレを見つめていたのだろう。
「ミオ……いつからここに?」
「さあ、かなり前からであることは確かね。夕食がすっかり冷え切っちゃったもの」
 オレはパソコンの画面の時間表示を見た。はじめた時間を確認してはいなかったが、表示は午後9時を回っている。オレが目覚めたときにミオが夕方だと言っていたその言葉が事実ならば、少なくとも2時間はパソコンに向かっていた計算になる。
「ごめん、ぜんぜん気がつかなくて」
「すごい集中力だったわよ。回りでパタパタ動いても反応ゼロだもの。覗き込んだの気付かなかった?」
「いや、ぜんぜん」
「指を見てても画面を見てても何をやってるか判らないくらい速かったの。すごいのね。いったい何を作ってたの?」
 その時のミオの質問に対する答えが、オレの頭の中から不意に湧き上がってきた。覚えていないはずの記憶。この、画面上の文字の羅列もそうだ。オレの中にはたくさんのデータが眠っている。きっかけさえ与えてやれば、オレはそれらを思い出すことができるんだ。