記憶・2
 オレは自分の記憶をたどって、この恐怖の原因を突き止めようとした。絶対によく知っているはずの顔。恐怖、嫌悪、侮蔑、懐古……。オレはこの顔の呪縛から逃れるために生きていたはずだ。逃れるために、この顔の男に挑んでいたはずだ。しかしそれは記憶ではなく、あくまでオレの中に残る感覚に過ぎなかった。オレの中に記憶はなかった。この男が誰であり、自分とどういう関わりがあり、何を持って自分に恐怖を植え付けたのか、その記憶がまったくないのだ。オレは更に記憶をたどった。彼は、いったい誰だ。
 その時、その顔が言った。
「お前こそ誰だ」
 オレは……。
 言いかけて、オレは更に恐怖に縛られた。オレは、オレは、オレは……。
 オレはいったい誰だ。