記憶・24
 叔父と姪。下宿人と大家の娘。ようやく匙をつけ始めたミオを見ながら、オレはミオとの関係を様々に想像した。友人の娘。再婚同士の連れ子。教師と生徒。義理の親子。
『義理の親子は結婚できないんだよ』
 不意に、頭の中にフレーズが浮かんできた。初めてだった。初めて、記憶らしい記憶がよみがえったのだ。
「誰……だ?」
 そう、声に出したオレに、ミオは不思議そうな表情を向けた。
「どうかしたの?」
「今、誰かの言葉を思い出した。誰かが言ったんだ。義理の親子は結婚できない、って」
 そうだ。オレの目の前には誰かがいた。誰か……。たぶん、女の子だ。
 ミオ、なのか? ミオがオレにそう言ったのか?
「他には? 何も思い出さない?」
「……ごめん、判らない。そう言ったのが女の子かもしれないって漠然と思うけど」
「義理の親子は結婚できない、か。伊佐巳が今15歳だとすると、あの人かもしれないわ。ちょっと待ってて」
 ミオは箪笥のところへ行って、引出しから一枚の紙を取り出して戻ってきた。あの箪笥にはあんなものまで入っているのか。
「伊佐巳はね、15歳の頃に3回、引越しをするの。ちょっと書いてみるわね」
 ミオは鉛筆で、紙に1本の線をひいた。その中ほどに印と、「引越し1」の文字を書く。その隣にもうひとつ印と「引越し2」の文字。更に隣に「引越し3」。簡単だったが、それはどうやらオレの年表らしかった。