無意識の世界 Ⅱ part 9
 知性も教養もある人が引き込まれてしまう不思議/<「認知的不協和」の心理
 カルト集団や新興宗教のテロ事件では、マインド・コントロールされてその団体の一員となり、恐ろしい犯罪に加担していたのは、高学歴で知的な人が多い。
 カルト教団にのめり込むというと、あまり自分でものを考えない、依存心が強くて単純な性格の人というイメージが強かっただけに、「どうしてこんな知的で頭のよさそうな人は引っかかったのか?」と、不思議に思った人が多いことだろう。
 これは、「認知的不協和」と呼ばれる心の働きで説明できる。
 われわれには、誰にでも、自分の行動を正しいと思いたい潜在心理がある。誰も、自分が悪い人間だと思いたくはないし、愚かな人間だとも思いたくない。
 そこで、自分が悪くも愚かでもない理由を、無意識のうちに作ってしまおうとする。
 例えば、他人が廊下で滑って転べば、「そそっかしいやつだ」と思うところでも、自分が同じ廊下で滑って転べば、「滑りやすい廊下だ」と思ったりする。
 自分の自尊心を守るために、無意識のうちに働く一種の自己防衛なので、特に自尊心の高い人に、この傾向が強い。
 高学歴で知的な人というのは、とかく自尊心が高いものだ。「だまされた」とか、「間違った信仰をしてしまった」とか、「マインド・コンロールに引っかかった」とは、どうしても思いたくない。それを認めれば、人格崩壊の危機に陥ってしまう。
 しかも、困ったことに、知的な人は、自分の自尊心を守るための言い訳を、次々に上手く考え出してしまう能力に長けている。
 そこで、教団が悪事を働いたのを知ったとか、自分がそれに加担してしまったというとき、それを弁護する理屈を考え出し、自分で自分を納得させてしまうのである。
 これが「認知的不協和」と呼ばれるもので、不協和があまりにも大きくなりすぎ、自己正当化の理屈を考え出せなくなると、二重人格のような症状や自己喪失の状態に陥ることにもなる。
 (E◇E)/b