社会学の夜明け 0 part 1
 文明の成熟の所産としての社会学
 「政治」の世界においては、権力者がその政治思想に従って社会を一つの方向へ引っ張ってゆこうとする。「経済」の世界においては、家計や企業といった経済主体が自己の利益を求めて行動している。この二つの世界を見れば、社会のダイナミックな動きをほぼつかむことは出来るだろう。しかし、「社会」には政治・経済だけでは充分につかみきれないものもある。それは政治や経済も、その上で行われている「社会」そのものの状況である。
 「社会」も変っている。しかし、それは誰かが変えようとして変わるものではない。自然にいつの間にか変わっているのだ。いや、変えたいと思っても、どうにも手がつけられない頑固なものが「社会」にはある。人は普通あまりそれに注意することはない。その上で行われる派手な立ち回りのほうがやはり、まず目に付くと言うことであろう。社会なるものが見えてくるのはすべてが一段落して、じっくり何かを考え、見つめ直してみるときのことなのであろう。
 この意味で「社会学」は現実から若干間合いを取ったところに、その視点があるように思われる。社会学においては、誰もが毎日あくせくと関わりあう種類の事柄には、あえて関わろうとはしない。むしろその奥にあるもの、日々心を煩わせる事柄の土台にあるものに関心を持つのである。