社会学の夜明け 0 part 2
◎社会学の元祖イブン=ハルドゥーン
 社会学の前回言ったレヴェルの問題に人間が学問的認識の眼を向けることは、文明がある程度成熟してから可能になることかも知れない。「社会学」は古代ギリシアにも生まれなかったし、元気のよかった頃のイスラーム圏にも生まれなかった。近代においても意気盛んなる時代には生まれなかった。おそらく、社会学の祖先を求めるならば、イスラーム文明も頽廃期に入ったころのイブン=ハルドゥーンに求めることが出来るかも知れない。
 イブン=ハルドゥーン(1332~1406年)はチュニスに生まれ、いろいろ政治に関わったけれども、失意ののち隠棲して『歴史序説』を書く。そこにはイスラーム世界の歴史的総括が見られる。彼は社会を「遊牧民と都市民との対抗関係」において把握し、一つの勢力が王朝を建設するとしても、やがて「内的連帯意識が弛緩することによって崩壊してしまう」というサイクルを冷厳に認識していたのである。いわば彼は、イスラーム世界における「ミネルヴァの梟(ふくろう)」だったのであり、そうした意味において社会学の創始者であった。

歴史の新の目標は、人類の社会的状態すなわち文明を理解する助けとなることであり、またこれに関する全現象を私たちに教えてくれることである。
  イブン=ハルドゥーン

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