2008年02月の記事


無意識の世界 Ⅱ part 10
なぜ普通の人が残酷な犯罪に走るのか<匿名状態と制服効果>
 古今東西、多くのテロ事件、戦争などで、特に異常性格でもない普通の人たちが、冷酷に多くの人間を殺害している。
 家庭にあってはよき父、よき夫として家族に愛情を注ぎ、知人や友人に暖かい思いやりを示せるような人が、戦場では、ボタン一つで爆弾を落として、簡単に多くの人を殺したりする。
 人間の本性は、実のところ、残酷なものなのだろうか?
 これについて、アメリカの心理学者ジンバルドの興味深い実験がある。
 ジンバルドは、「女性に電気ショックを与える実験」という名目で、電気のスイッチを押す係りを、女子学生の中から募った。
 電気ショックを受ける女性は二人で、一人は感じのよい人、もう一人は感じの悪い人という印象を与えるような情報を、前もってスイッチ係りの学生に聞かせておいた。
 そして、「合図と同時にボタンを押し、次の合図まで続けて欲しい」と頼んだ後、「気の毒になったら、ボタンを押すのをやめてもかまわない」という条件をつけた。
 実は、本当の被験者は、このスイッチ係りの女子学生たちで、電気ショックを受ける女性二人はサクラ。もちろん、「電気ショック」というのはウソである。
 女子学生がスイッチを押すと、サクラの女性は苦しそうな演技をしてみせる。
 この実験は「被験者はあなたの顔も名前も分からない」と伝えた状態と、「被験者はあなたの顔は分からないが名前は知っている」と伝えた状態とで、それぞれ行なわれた。
 すると「顔も名前も分からない」と伝えられたスイッチ係りは、「名前は知っている」と伝えられたときよりも、長い時間スイッチを押した。
 また、相手が「感じのよい女性」の場合より、「感じの悪い女性」の場合のほうが、スイッチを長く押し続けた。特に、顔も名前も分からない状態のスイッチ係りは、「感じの悪い女性」に対して冷酷だった。
 この実験で、自分が誰か知られていなければ、無意識のうちに人間は冷酷になること、特に相手がいやな人間の場合は冷酷になることが分かったのである。
 ただし、顔も名前も分からなければ、常に冷酷になるとは限らない。状況によっては、かえって相手に親近感を持つ場合だってある。
 ガーゲンらの研究によると、見知らぬ人同士が何人かで同じ部屋にいる場合、顔の分かる明るい部屋にいるより、顔がよくわからない薄暗い部屋にいるほうが、お互いに触れたり、抱き合ったりというような行動が多くなるという。
 自分の顔も名前も分からない匿名状態というのは、状況によって、他人に親和的になることもあれば、逆に冷酷になることもあるわけだ。
 次回に続きます。
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生命誌の世界 Ⅳ part 8
 地球上に果たしてどれだけの生物種があるのか。現代なら博物学はこのような問いを持って当然と思いますが、つい最近までそのような問いはなされなかったというのも生物学の歴史として興味深いことです。ここで注目すべきは、ニューヨーク自然史博物館のアーウィンらが、パナマにあるスミソニアン野外研究施設で行なった調査です。熱帯雨林の昆虫はあまり陽のささない地面にはおらず林冠にいるので、アーウィンは19本の樹木を選び3シーズンにわたり下から殺虫剤を吹き付け、下に置いたビニールに集まってくる昆虫を調べました。すると、なんと既知のものは4%しかなかった。ここから逆算すると、昆虫は全体で3000万種いることになります。実は多様性を誇るのは昆虫で、全体の53%を占めており、これを調べるのが全体の数に最も近くなるわけです。
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