2008年06月の記事


生命誌の世界 Ⅳ part 10
 共通性と多様性を結ぶ
 現在、多様性の研究はとても興味深い展開をしています。アーウィンの方法は、標本蒐集にはなるけれど、実際に熱帯雨林の中で生き物がどのように暮らしているのかは分かりません。林冠は低いところで40メートル、高いと70メートルもあるのでなかなか到達できません。そこで、さまざまな工夫がなされていますが、京都大学教授だった故井上民二はツリータワーとウォークウェイ(樹登り用の梯子と樹間をつなぐ橋)を見事に設計し、マレーシア・サラワク州で生きた熱帯雨林、ダイナミックに動いている熱帯雨林を捉える事に成功しました。ここでは彼らの仕事を詳細に紹介する余裕がありませんが、送粉共生(おしべはほとんど昆虫が運ぶ)、種子散布共生(鳥や哺乳類が種子を運ぶ)、被食防衛共生(植物が化学防衛をしたりアリとの共生をする)、栄養共生(キノコ類と植物が共生しお互いに栄養分を与え合っている)などについて見事な成果をあげました。それについては、井上民二著『生命の宝庫・熱帯雨林』(NHKライブラリー)を是非読んでいただきたいと思います。
 熱帯雨林まで行かずとも、足元の地中や海中も多様性の宝庫で、今、それぞれ研究が始まっています。
 生物の多様性については、まだこれから調べることがたくさんありますが、おおよその種の数は分かり、多様性が保たれている様子を知る「方法」も手に入りました。科学としては、方向が見えこれからぐんぐん成果が出るところに到達したと言ってよいと思います。
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生命誌の世界 Ⅳ part 9
 共通性と多様性を結ぶ
 それまでは自分の好みで研究をしていた博物学者がなぜ今になって地球全体の様子を知ろうとし始めたのか。二つの理由があると思います。
 最初に述べたように、人類が宇宙に飛び出し、地球を一つの星と考えるようになったこと、一方、環境問題から、生物種がどんどん消滅しているという報告があり、今のうちに調べておかなければ消えてしまう生き物があるという気持ちになったことがその理由でしょう。この概念がない間は全体を調べようという気持ちは起きなかったのだと思います。多様性の宝庫といえば熱帯雨林、そこの調査が行なわれたわけです。以来多くの研究者がその重要性に気付き、東南アジアなどでも研究が進められました。カリマンタン島では昆虫類が五千万から八千万種いるというデータが出ました。多様性について何も知らなかった・・・人間、あまり生意気なことを言ってはいけないという反省材料です。
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