2009年09月の記事


生命誌の世界 Ⅳ part 12
ところで、ダーウィンの時代は、変異が起きた場合、それがある環境の中で形態的に有利であると、それが集団の中に広まって進化につながると言ったわけです(日本語では突然変異と言いますが、これが事情をよく現しています。ある日突然変わった形や色のものが現れる、という気持ちです。しかし今では計画的に変異を起こせます。しかも変異はDNA内ヌクレオチドの変化だということもわかっています。変異でよいでしょう)。ダーウィンの自然選択は、常識に合う見方です。しかし、変異はDNAに偶然起きるのであって、ほとんどの場合は、良くも悪くもない(中立)か、悪いかです。たまたま起きた変化が素晴らしい性質を示すなどということは滅多にありません。悪いものは消えますから、残るものの多くは中立の変異ということになります(中立変異説)。選択の前にまず偶然があります。
 つまり、DNAの変化、個体が誕生するか否かの選択も含めての個体の変化、集団の変化という三段階の変化があって初めて進化が起きます。変異は他でもないDNAに起きるのですから、それを分析して研究を進めることが出来ます。分子進化学です。分子進化学を追っていくと、さまざまな生き物がどのようにして今の姿になってきたか、多様化してきたか、お互いの関係はどうかがはっきりします。もちろん、生物の歴史はDNAだけで追えるものではありません。個体の変化、集団の変化を追うことが大切で、形態の変化や化石情報が重要です。後で出てきますが、カンブリア紀の大爆発と言って六億年ほど前に、これでもかこれでもかと言うように形作りをして見せた生物たちがいるのですが、そのほとんどは消えてしまったので、これは化石でしかわかりません。一方、サカナのひれと私たちの脚の関係は、形態研究とその背後にあるDNAの変化からわかってきます。
 幸い、ゲノムには過去のDNAの変化が蓄積されています。ですから、基本はDNAの変化に置き、当面ゲノムに残った歴史を追い、形態や化石とも関連をつけていこう、というのが生命誌の方法です。
コメント (0)