無意識の世界 Ⅱ part 11
 なぜ普通の人が残酷な犯罪に走るのか<匿名状態と制服効果>(続き)
 匿名状態で冷酷になるかどうかは、「制服効果」と呼ばれる潜在心理によっても違ってくる。
 心理学者のジョンソンとダウニングは、先に挙げたジンバルドと同じようなニセの電気ショックの実験で、被験者の半分に、悪名高いA結社の制服に似た服を着せ、あとの半分に看護婦のユニホームを着せた。どちらのグループも、半分は名札を胸につけ、あとの半分は匿名だった。
 実験の名目は、「電気ショックが学習にどう影響するか」で、表向きの被験者(サクラ)が間違った答えをしたとき、電気の強さの違う六段階のボタンから一つを選んで押し、電気ショックを与えるように指示した。
 すると、残虐なイメージのA結社の制服を着た被験者は、強い電気ショックのボタンを選び、人助けのイメージを持つ看護婦の白衣を着た被験者は、弱い電流のボタンを選んで押した。
 そして、A結社の制服を着た被験者は、匿名条件の人のほうが、名札をつけた人よりも強い電気ショックのボタンを選び、看護婦の白衣を着ている人は匿名条件のほうが、かえって電気ショックを和らげようとした。
 明らかに、被験者は、自分が着ている制服の影響を無意識に受け、その影響は、匿名条件で強くなっていたのである。
 どうやら、人は、自分の顔も名前も知られない状態で、特定のイメージを持つ制服を身につけると、本来の自分を忘れて、制服の”役割イメージ”に合わせてしまう傾向があるようだ。
 だとすれば、例えば、ボタン一つで爆弾を投下する兵士の場合、爆弾を受けることになる敵国の人々に、自分の顔も名前も知られておらず、戦争相手というのでその国の人々にいい印象を持ってはおらず、しかも、人を殺す兵士の制服を着ている。そんなところから、ふだんは血も涙もある普通の人でも、冷酷になるのだろうと考えられる。