春便り
 ぽかぽか日和だった。午後の紅茶、マグカップを片手に、休憩時間に花壇を見にいった。ビオラやパンジー、デイジーの蕾がふくらみかけていた。チューリップやヒヤシンスの芽が出ていた。スノードロップだけがその花を終えかけていた。

 マルチのつもりで敷いているバーク堆肥の上から、たくさん雑草が生えていた。春の草は見かけよりかなり根が深い。早めに除草しておかないと面倒になる。毎日少しずつ引いていこうと、今日はいちばん日当たりがよい面の草を引いた。

 マグカップの中身を飲み乾して、赤煉瓦の上に置いた。ふ〜っと息をして中腰になる。茎から千切れないように、しっかりと掴んで根から引っこ抜く。矢継ぎ早にやっていると、抜いた草の中に見馴れた花の苗があった。やわらかな土の表面を目を凝らして見てみると、去年や一昨年に咲いていた花の芽がたくさん出ていた。こぼれ種がまた芽を吹いていた。ほんわかな気持ちになった。

 花菱草、アイスランドポピー、紫花菜、スィート・アリッサム、それにもちろんパンジーとビオラ、デイジー。整列して植えているから、これらをこのままにしていくと、花壇のバランスが崩れてしまう。かといって、引き抜いてしまうには忍びない。だから、草引きにはとても気を使った。選り分けるのがたいへんだった。

 あれ、梅の花が満開だった。垣根の花梨の陰になってしまった小さな梅の木の、枝じゅういっぱいにうす桃色の花が咲いている。もうすぐ春だ。垣根越しに女性の声が聞こえた。「また今年もきれいな花が咲きますね」

 無粋な電話の声とともに午後の紅茶の時間は終わる。今週いっぱいは梅の花は散らないだろう。明日また午後の紅茶を飲んで、草引きをして、声がかかるだろうか。そんなひそかな楽しみを見出しながら、今日の記を終えるのである。