ごめん
 子供のころ、大人や年上の人たちからよくいわれた言葉がある。「ごめんですむんやったら、警察はいらんやろ。ごめんですまさんように、責任持ってやらんかい!」

 「そんなこというてもできんことはでけへんし、誰やったって失敗くらいするわい」、それが叱られたときのぼくらの偽らざる気持ちだった。そのくせ、同年代の仲間や年下には同じ口上を、思わず使ってしまっていた。

 失敗をしたり、嘘をついたり、不正をしたり・・・、現在ではごめんも言えない人が多くなった。かつての美徳である不言実行に変わって、勇気ある有言実行がもてはやされている時代である。が、嘘八百、風呂の釜(湯だけ)ではいかんともしがたい。胸を張ってごめんは言うもんじゃない。うつむきかげんで、伏目がちにさも申し訳なさそうに頭を垂れるものである。もちろん、ミスをしたときは責任を取る。大人なら当たりまえのことだ。

 昨今の世の中、ごめんですまされない出来事がどれほどあることか。毎日のニュースを聞いているといやになる。警察のご厄介、世間を騒がせるような悪質な事件がもう少し減ってくれないものかと、つい愚痴りたくなる。

 「ごめんですむんやったら、警察は要らんぞ!」 こんな育ちながらの、冗談とも本気ともつかない叱責をときおり思い出すことがある。いまより世の中はずっと厳しかった。