さわやかな風
 阿弥陀堂だよりを見た。

 東京で暮らす40代前半の夫婦、売れない作家孝夫(寺尾聰)と大学病院で最先端医療に携わる有能な医者、美智子(樋口可南子)。多忙な美智子は流産し、ある時パニック障害という心の病にかかってしまう。東京での生活に疲れた二人が、孝夫の実家のある長野県の無医村にやってくる。二人は大自然の中で暮しはじめ、様々な悩みを抱えた人々とのふれあいによって、徐々に自分自身を、そして生きる喜びを取りもどしていく。

 山里の美しい村に帰った二人は、96歳の老婆おうめを訪ねる。彼女は、阿弥陀堂という、村の死者が祭られたお堂に暮らしていた。何度かおうめのところに通ううちに孝夫は、聾唖の少女、小百合(小西真由美)に出会う。彼女は村の広報誌に「阿弥陀堂だより」というコラムを連載していた。それは、おうめが日々思ったことを小百合が書きとめ、まとめているのだった。

 が、ある日、小百合の病状が悪化する。脳腫瘍だ。手術に急を要するとき、美智子は再びメスを持つことを決意する。おうめばあさんの祈りが涙を誘う。

 主演は北林谷栄演じる96歳のおうめばあさんといってもよい。彼女の語る言葉そのものが、阿弥陀堂だよりなのだから。老いたりとはいえ、彼女の演技はまさに阿弥陀さまのようであった。

 奥信濃はすばらしい自然である。まわりの山々や緑あふれる阿弥陀堂近くの棚田風景は、とても心を和ませてくれる。やがて冬が訪れ、雪が降り、雪が積もる。そのとき、山と麓との境界線が消える。そして、雪が解け、再び春がやってくる。季節とはまるでひとの生と死のようだ。美しい自然とほのぼのとした物語、そっとぼくにさわやかな風が吹いた。