砂の器
 松本清張の代表作のひとつで、日本の推理小説史の十指に入る。近頃リメイクブームのようで、「白い巨塔」につづいて、この「砂の器」もまた再ドラマ化されている。またまたスマップのひとりが主要な役を演じているそうな。彼が主演した「模倣犯」は実につまらない映画だったけれど。

 できれば、1974年に公開された松竹映画のほうを先に見て欲しい。たいていの店にビデオレンタルがされている。が、まちがってもリメイク版のビデオを借りないように。そこにもビデオ用のリメイクがある。野村芳太郎監督、主演の今西警部補に丹波哲郎、 作曲家、和賀英良に加藤剛、その愛人、高木理恵子に島田陽子が扮しているものだ。

 これは日本の映画史にも残るいい映画だ。笠智衆 、加藤嘉 、佐分利信、緒形拳、渥美清らが見事な脇役を務めていて、手に汗握る推理と戦後の日本の悲しい時代とが交錯する。脚本には橋本忍と山田洋次が携わっており、音楽はかの芥川龍之介の三男、芥川也寸志が担当している。交響曲「宿命」はすばらしい。

 また、ドラマではヒロインの設定が異なっている。原作に基づく映画では、銀座のクラブのホステスだったのが、ドラマでは舞台女優となっている。ドラマを毎週見るつもりはない。四半世紀を隔てて、現在向きにアレンジがなされるいるのだと想像する。また、今西警部補が渡辺謙なら遜色はない。が、和賀英良役には視聴率稼ぎがありありと見える。ミスキャストだと、ぼくは思う。

 できれば原作も読んで欲しい。とても面白い推理小説なのだ。が、内田康夫や西村京太郎などの多作の、単なる推理小説ではない。時代考証を念入りに行い、取材を重ね、松本清張が心血注いで書きあげた作品だ。書評では、時代の流れに色褪せることのない秀作であり、社会派サスペンスの最高傑作と絶賛されている。