天使の卵〜
 小五の息子が宮部みゆきの「ドリーム・バスター第二巻」を熱心に読んでいる。ルビが打っていないから、「ハリーポッター」シリーズより難しいそうである。表紙がアニメだから、子供向きの本だと思って、先月の誕生日に買ってやったものだが、まさかトー・ビー・コンティニューものだとは気がつかなかった。で、イズミヤの書店で続きを先ほど買ってやった次第である。

 ついでにぼくも一冊と何かを探してみた。目立つところに複数平積みされた文庫作品は、流行作家のものとわずかに残された古典で占められている。その他は書籍棚に出版社別に並べられていて、どの作家のどの作品がどの出版社のものかわからないので、文庫のコーナーを堂々巡りしなくてはならない。題名の記憶がおぼろげであるから、迷いながらの探し物をしているようでもある。店員に聞けばことは簡単なのだろうが、それが面倒だ。出版社などどうでもいいから、作家別に全部まとめて陳列してくれればと、大きい本屋へ行ったときほどそう思う。

 なかなか見つからないはずだった。記憶にあった作品は短編で、その短編を収めた短編集のタイトルが別な名前だった。店員に尋ねなくてよかった。よけい面倒なことになっていた。その探していた短編は「南から来た男」、ロアルド・ダールの珠玉の作品である。ハヤカワ文庫の「あなたに似た人」に納められていた。

 「ドリーム・バスター2」を脇に抱えた息子を待たせて、メインのハードカバーの場所へ行ってみた。新作、人気作家のものがたくさん積み上げられている。「ドリーム・バスター」もそこに並んでいた。17歳の史上最年少で文芸賞を受賞したという、綿矢りさの「蹴りたい背中」と受賞作の「インストール」がとなりにあった。ぼくはその二冊を手にとり、ちょっとだけ流し読みをした。すごく若い言葉たちだった。それから目線を平行にし、少し角の傷んだグレーのカバーの一冊を手にとった。少し恥ずかしいが言っちまおう。村山由佳の「すべての雲は銀の。。。」 似たようなジャンルの女性作家でなら、ぼくは江国香織や唯川恵より彼女の文体のほうが好きだ。書く内容のほうも。理由のひとつとして、それは彼女がぼくを主人公に描くからかもしれない。『わたしのなかのかれ』に話すかのように。

 久しぶりに気楽に本を読めている。日本の作家の作品、それも今の時代の作家の書くものは、感覚がずれることがないので読みやすい。情景描写、時代背景も明確だ。だから、読むピッチも自ずと速くなる。これまで読んだ彼女の作品は三作、「天子の卵」、「もう一度デジャヴ」、「きみのためにできること」、たぶん三年以上前のことだ。軽くていいなんていうと、彼女に失礼かもしれない。けれど、たまにはジーンズにスニーカー姿のような、軽快なタッチで本に接してみるのもいいものだ。で、「すべての雲は銀の。。。」はまだ半分読んだだけだが、ちょっぴりグー。