存在
 ぼくは生粋の日本人である。が、食事に米がなくても味噌汁がなくてもいっこうに差し支えない。

 盃をかわしあうのが嫌いである。宴席が好きではない。演歌が好きではない。いちばんきらいな歌は「涙の操」。だから、おっさんばかりの宴会が嫌いである。

 いわゆるお涙頂戴の話が嫌いである。「いっぱいのかけそば」にはだまされたが、たまには手落ちもある。「男はつらいよ」シリーズが苦手だった。寅さんは日本人の心の故郷だなどと聞くたびに辟易した。そんなふうに決めつけないでほしいと思ったのだ。ひとそれぞれに日本人の心を持っている。ぼくは「あっしにはかかわりのねえことでござんす」の孤独な渡世人、木枯らし紋次郎のほうが好きだった。

 家では、ベッドより畳の上の布団のほうが好きである。が、旅館よりホテルのほうが好きである。邦楽より洋楽のほうに好みが多い。が、ダイアナ妃より夏目雅子のほうが好きである。こんなふうにぼくは矛盾だらけの日本人で、変人だといわれることなく普通に生きている。