SEPTEMBER AFFAIR
 BSでたまたまモノクロのアメリカ映画を見ていた。邦題「旅愁」、1950年の作品だ。

 ナポリやフィレンツェの街の光景はとても叙情的だ。あのドオモもはっきりと見ることができた。そして、美しいカプリの海、そのブルーを想像するだけで旅情に誘われる。

 半世紀前のアメリカ映画は純愛路線だった。今ならうざったく感じられるような情愛が、モノクロの画面を通してさわやかでさえある。

 人は人生に疲れた時、新しい人生をやり直せたら、と思うことがある。それも愛する素敵な人と一緒に。

 ローマを飛び立った飛行機が途中でトラブルを起こしてナポリに不時着した。機内で知り合ったエンジニアのデヴィッドとピアニストのマニーナは修理の間、ナポリ観光をする。しかし、楽しい語らいのうちに時間を忘れ飛行機に乗り遅れてしまう。その飛行機がなんと事故を起こし乗員全員死亡のニュースが流れる。死亡したことになった二人は、過去を清算し二人だけの愛の生活を始める・・・。デヴィッドには妻子があり、マニーナはピアニストとしてアメリカで凱旋公演を控える身だったというのに。

 死んだと思っていたはずの夫、父が健在であることを知った妻子は、デヴィッドを探しにフィレンツェを訪れる。マニーナは二人と出会い、デヴィッドとの離別を決意する。三角関係によるいざこざ、愁嘆場は一切なく、各々が相手の気持ちを思いやり、それぞれが切ない涙を流す。マニーナはニューヨークでの公演を成功させ、ひとりブエノスアイレスへと旅立って行く。

 テーマ曲になっている「セプテンバーソング」、それが実にいい。最初はナポリのレストランで聞いたレコード。それをうっとり聞くマニーナとそんな彼女をうっとり見つめるデイヴィッド。そこから恋は始まった。ロマンティックな曲であり、人生の機微を切々と歌いあげている。春の楽しい時、9月の初秋、そして哀愁の11月・・・と人生を月にたとえたこの歌。短い時を精一杯生きようするデヴィッドとマニーナの心情にぴったりフィットする歌だ。それから、ピアニスト、マニーナが弾くラフマニノフのピアノ協奏曲第2番第3楽章がとてもいい。まさに名画に名曲ありきとでもいうように。

 ま、この映画みたいに男と女の関係がかくあれば、世の中平和なんでしょうが・・・。