息子の担任
 小五の息子の担任の先生が気になっていた。人柄もよく、快活で、息子は今年の担任を気に入っている。ちょっぴり丸顔で、ぱっちりとした目をしていた。少々美人でもある。

 気になっていたというのは、男子としての気持ちからではない。思い出せそうで思い出せないもどかしい感じ、そんなようだった。うちへ枇杷狩りに来たときのこと、誰かと似ていた。

 そうして、全くにそのことを忘却していた。疲労困憊の徒然なる今日の土曜日、推理小説でも買おうと近くの本屋に行っていた。そこでなにげなく手に取ったのが、「さよならは恋の終わりではなく」。ページを開くと、担任の先生に似ていたのはこの作者だった。

 作者の名前は吉元由美、杏里の歌の作詞者として記憶していた。そうか、いつの間にか作家になっていたんだ。ぼくは感慨深げになって、流し読みしながらページをめくっていった。

 息子の担任の先生もけっして若くない。おそらく、吉元由美と同年代だろう。先生にはそばかすがある。キャンディ・キャンディでもないが、頬にちょっとのそばかす美人は好みでもある。

 昨夜遅くまで父の面倒を見ていて、かなり疲れていた。ほんの些細な記憶の断片を埋めることができて、うんざりしていた、なえた気持ちが、ほんわりと癒されたような気になった。ぼくは息子の担任の先生と吉元由美を見比べて微笑んでいたのである。